【前日】
雨…。
バチバチと車の屋根を叩く音に起こされ、まだ暗い外を窓から覗いて横殴りに叩きつける大粒の雨に嘆息する。
もともとの計画はこうです。御池から熊沢田代を通るルートで燧ヶ岳に登り、見晴新道を下りて下田代キャンプ場にて一泊。翌日温泉小屋を経て渋沢温泉まで行き、そこから天神田代に登り返して御池に帰着。
予報では天気は快方に向かって早朝には上がっているかまたはせいぜい小雨が残る程度だった筈なのに、このざま。さすがにこうも大粒の雨では行く気にもなれず、計画変更です。翌日には帰らなければならないのでテン泊は諦め、翌日半日だけで澁沢温泉小屋(しぼさわおんせんごや)までの往復のみとしました。
有料の御池駐車場ではなく手前のアルザ尾瀬の郷で車中泊していて良かった。危うく千円が無駄になるとこ。
その日の昼前には雲ひとつない快晴となり、もう少し早ければと再び嘆息。
【当日:渋沢温泉まで】
午前六時前、大きな御池駐車場には既に結構な台数の車が停まっています。それにしてもよく整備されていて、他の山域の登山口にある駐車場とは一線を画します。靴洗い場も用意されているし、トイレはウォシュレット。さすが尾瀬。まあだけど駐車料金千円も取られている訳ですが…。*写真(1)
広い駐車場の最奥から湿原へ足を踏み入れます。最初は森の中ですが既に木道は敷かれていて快適。そして暫く行くと空の開けた清々しく尾瀬らしい木道の湿原散歩になります。*写真(2)
燧ヶ岳を左側に眺めながら、御池田代湿原、姫田代湿原、上田代湿原、と間に森を挟んで次々と現れる湿原を越えて行きます。*写真(3)
たまに登山道らしい荒れた道にもなりますが、殆どが木道の上なのでとにかく楽。天気も上々、気分も軽々。
…そんな行程がずっと続くと思ってました。
天神田代の辺りへ来ると、渋沢温泉へ分岐する案内道標が現れます。しかし木道は三条ノ滝方面へ続く一本のみ。地図を取り出し、しばし地図と看板を眺めます。
(;´・ω・`)ええ〜っ!
看板の示す方向はというと、背の低い水草が覆う湿原の緩やかな水の流れが木々を分け、確かに道のように見えないこともありませんが…。
マジっすか?!とげんなりしながら湿原に足を降ろすと、ぐぶぐぶっと靴が潜ります。尾瀬といえば環境保護という頭があるので、この湿原を踏み荒らす行為は精神的なダメージも大きい。足の置き場を慎重に選びながら、水の流れに沿ってぐっぽぐっぽと靴を鳴らして進みます。歩道ってゆーか、ただの浅い川です。
そんな精神的苦痛に耐えながらのせいか、やたら時間が長く感じます。傾斜はだんだんきつくなってくるし、終いには大石のごろごろする崖を攀じり下りるような個所も。所々に渋沢温泉への道標があり道を間違えてないことはわかりますが、ただの小川を道だと言い張っているみたいで、道標が現れる度に「ホントかよ!」とツッコミを入れます。
行けども行けども渋沢温泉は現れず、何度「ここを越えたら到着?」と期待させられたか。写真を撮る余裕もなく、ひたすら進みます。
これ大丈夫?って疑いたくなる腐りかけた木製の梯子を慎重に下りると、残りは後僅かでした。*写真(4)
川に架かる木の橋を渡れば、渋沢温泉せせらぎの湯に到着です。*写真(5)
澁沢温泉小屋はせせらぎの湯からもう少し森に入った場所にあります。*写真(6)
【澁沢温泉小屋からの帰り】
さて、問題は帰りをどうするか。予定では同じ道を帰るつもりでしたが、どうしてもあの道を辿る気にはなれません。それとも兎田代へ出て燧裏林道を戻るか。これは大きく回り込むことになるので時間がかかります。
結局出した結論は「もういいや、小沢平(こぞうだいら)に出て国道から戻ろう」でした。バスがあることを期待して。
只見川沿いに国道352号へ向かうルートは、湿地の歩きよりなんぼかマシでした。が、木の根が露出した登山道は歩きやすいとまでは言えないもの。国道までは1時間強です。
国道に出てすぐ目ざとくバス停を見つけました。ツイてるぜと喜び時刻表を見ると…四時間は待たねばなりません。どうやら朝と夕方にしか便がない模様。ツイてないぜ。
長い長い、そしてつまらない御池までの道程。とぼとぼとぼとぼ歩き続けます。救世主が現れるまで…。
あの時の工事のおっちゃん、ありがとうっ!!