
つい先日のことですが、たった400mの移動の途中で遭難死した事故がありました。遺体が発見されたのは、目的の山荘のすぐ隣にあった無人の旧山荘の軒先だったということです。季節柄ということもあり吹雪で視界がほぼゼロだったようですが、視界ゼロはなにも冬に限ったことではありません。ミルクを流したような濃霧で道を失い遭難するのはありがちなパターンです。ホワイトアウトでは平衡感覚すらなくなります。
家のすぐそばで交通事故を起こすことは多いそうですが、山でもそれと同じで距離が短いからとかすぐ近くだからというのは安心できる材料ではありません。大勢の観光客がいる高尾山ですら遭難は起きています。遭難しようと思ってする人はいません。遭難してしまった場合の対策を準備しておくことは必要です。
行動予定表
道迷いなどで行方不明になった場合、捜索願が出て初めて捜索が始まります。捜索する時にその人の足取りがわからなければ、捜索範囲が広範になり過ぎて発見が難しくなります。発見が遅れればそれだけ命も危険に晒されますし、捜索費用も積み上がって行きます。捜索に民間ヘリが飛べば一回の出動で100万前後。警察ヘリなら無料ですが地上の民間救助隊に一日数十万。何日も続いたらそれは恐ろしい額になってしまいます。
速やかに発見してもらうためにも、行動予定表を書いて家族に渡しておきましょう。どの登山口から入山して経由地、目的地を日程表に書き込みます。
但し、不慮の予定変更はあるものです。1日2日予定が延びても大丈夫な装備を持つことは当たり前として、家族にも下山予定が遅れる可能性もあることを伝えておかないと、ちょっと予定が遅れて予定日に下山できず小屋に逃げ込んだだけだったのに捜索隊が出動したなんて事態にもなりかねません。
登山届
登山届は遭難者の足取りを知るための重要な手掛かりとなります。遭難でもなければ特に目を通されることもないので、不倫カップルでも安心して提出して下さい。どっちにしろ自分が遭難してしまえばバレることですし。ただ、同じ日に同じルートで誰かの遭難事故があった場合、登山届を元に遭難者の目撃情報の問い合わせが来るかもしれません。人の命がかかっていますので、その場合は保身は忘れて正確な情報を提供しましょう。
滑落などの場合、通りがかりの登山者や山小屋などが遭難届けを出すこともあります。登山届が提出してあれば家族への連絡がスムーズになります。
登山口には登山届提出用のポストが設置されています。ポストがない所でも、管轄の警察で受け付けてくれます。郵送やファックスでも構いませんし、インターネットで提出できる警察もあります。
登山届といっても別に決まった様式があるわけではありません。役所に行って登山届けくださいと言っても出てこないですよ。ノートの切れ端でもいいので、登山計画書と書いて行動予定・催行人数・緊急連絡先などを記入するだけです。登山届をPDFで配布している警察もありますので、ダウンロードして印刷するといいでしょう。その警察だけに限るものではなくどこに出しても構いません。
山岳保険
遭難捜索には費用がかかることは前述しました。備えがなければ手痛い出費になります。そこで保険ですが、普通のレジャー保険では登山の捜索費用までカバーしていません。そこで山岳遭難にも対応した保険に入ることになります。
山岳保険には、保険会社が普通のレジャー保険に特約を付けたものと、山岳会などが提供している山岳保険(共済)があります。レジャー保険に特約が付いたタイプですと、入院治療費や登山以外のレジャーでの事故までカバーしているものが大半です。山岳会提供の山岳保険は捜索救助費用に限定している代わりに掛金が安く抑えられます。山岳会提供といっても、個人で入ることが可能です。登山用品店にパンフレットが置いてあることもありますので、見つけたら目を通してみて下さい。
保険には年間で掛金を払うもの以外に、旅行ごとに都度掛けるものもあります。
補償範囲はそれぞれで違ってきますので、よく確認しておく必要があります。道具を使う登攀と夏季のハイキングとで入る保険が違い掛金も変わってきます。道具を使うと言ってもその道具とはどの程度の道具なのかも確認しておかなければなりません。例えば、ハイキング程度でも4本爪の軽アイゼンは使う可能性がありますね。また、保険会社提供のものは高山病や疾病の場合は対象外になっていることもあります。
山岳保険は個人保険なので当人にしか適用されません。複数人で行った場合に遭難救助費用は頭割で計算され、加入者本人分しか支払われませんから全員がそれぞれ保険に加入する必要があります。
山岳会の保険
保険会社
緊急連絡先
自分が帰らなかった場合にどこに連絡すればいいか家族に伝えておくと共に、自分でも連絡先を控えておかなければなりません。怪我で動けなくなった場合に自分自身で連絡する必要もあるかもしれませんので。
管轄の警察署、予定ルートの近くにある山小屋などの電話番号を控えておきます。最近は山の中でも携帯が通じる場所が結構ありますので、携帯の電話帳に入れておくと良いと思います。