
山小屋を普通の旅館と一緒に考えてはダメです。お客様を下にも置かないサービスとは全く無縁の世界です。45度のお辞儀も、食べきれないほどてんこ盛りのおいしい食事も、そこには一切存在しません。期待するだけ無駄ってもんです。
下界の物流のように物資を車で運ぶことは出来ず、ヘリによる空輸か人が担ぎ上げるしかないのですから、全ての物に少なくないコストがかかっています。水でさえ有料です。
昔の観光地によくあった水のようなカレーや、臭いトイレ、すきま風の吹き込む寒い部屋に薄っぺらいせんべい布団、どれも下界では憤激ものですが、山の上ではどれも無いよりはとてもありがたいものです。
とまあこんな感じを基準にしておくと良いのではないでしょうか。最近は山小屋の設備や食事も改善されつつあり、そりゃあ下界の旅館とはとても比べられるもんじゃないとはいえ、上記のようなことを覚悟しておけば、それより少しでも良かったりしたら天国のように快適に過ごすことが出来ます。
山小屋の宿泊料はだいたい一泊二食付き8,000円前後となっています。一食のみ、あるいは素泊りも可能です。
予約
緊急避難場所的な役割も負っていることから、予約が無くても泊まれる山小屋が多いのですが、富士山や尾瀬、他にも一部では定員以上は受け入れなかったり完全予約制としている山小屋もあります。
登山は天候などの理由で予定が流動的であることから予約を入れない登山者も多いのですが、基本的には予約を入れておいた方が良いのは言うまでもありません。到着時間が遅いと食事が用意できず食いそびれることもあります。到着時間が充分早くても体力に余裕がありそうなら次の小屋まで行けと追い返されることもあります。キャンセル料は取られませんので必ず予約しておきましょう。なお、天候や体調不良などの理由でキャンセルする場合は、遭難したのかと余計な心配されないためにも必ずキャンセルの連絡を入れて下さい。
団体の場合は予約がないと宿泊できないと思っておいた方が良いでしょう。何人から団体扱いになるかは小屋によって違います。
部屋
基本は相部屋です。メジャー山域では個室も用意してある小屋がありますが、個室料金はかなり割高になります。列車の寝台車のようにコンパートメントを二段に並べて寝るスペースを提供する小屋もあります。
予約無しでも客を受け入れるので、混雑時には一枚の布団に三人の割当なんてことも発生します。当然のこと横になれるスペースも確保できないので、膝を抱えてウトウトするしかありません。横になれたとしても布団を共有しているオヤジの臭い足が目の前です。布団を諦めて廊下や食堂で寝る人も出てきます。混雑時に遅めの到着だと割当の部屋に入った時、「まだ来んのかよ」と先客からあからさまに嫌な視線を浴びます。就寝後トイレに立ったりすると戻った時に自分の居場所がなくなっています。
白馬鑓温泉や阿曽原温泉などは雪崩で倒壊する恐れがあるため冬季は解体されます。解体しやすいようにプレハブなので、すきま風は仕方ありません。寒がりな人はシュラフカバーやウォームアップシーツを持って行くなどすると便利です。
山小屋の布団に洗い立てのシーツなんて望めません。晴天がなければ布団を干すこともできないので、湿った布団でも我慢しなければなりません。荷物は重くなってしまいますが、神経質な人は寝袋を持って行くなどの対策をとる必要があります。
食事
荒天が続いたり遭難が頻発すれば輸送ヘリを確保できず、人力輸送に頼るしかなくなるので食材が乏しくなります。また、混雑時は効率が最優先となるため、カレーだったとしても仕方ないです。おいしい食事にありつけるかは小屋にもよりますが運でもあります。
山小屋の食事時間は早く、混雑時には午後4時から始まることもあります。食堂に入れる人数には限りがあるため30分くらいで入れ替えになることもあり、のんびり食べることもできなくなります。朝食も同様です。前日に頼んでおけば朝食を弁当にしてもらうこともできるので、早立ちして景色の良い場所でのんびり弁当を食べるというのもひとつの手です。なお、弁当は前日夜のうちに渡されます。
食事のおかわりはできる小屋とできない小屋があります。量が足りない場合もありますので、行動食は多めに持って行った方が良いと思います。
消灯時間
殆どは遅くとも午後9時が消灯時間になります。登山者の寝る時間は早いので、遅くまで酒盛りなんてできません。
消灯時間までに寝床の準備を整えておく必要があります。皆が寝静まってからがさがさ物を探すのは大変な迷惑です。ヘッドランプや腕時計など、必要になりそうな物は身近に用意しておく必要があります。寝てる間にどこかに行ってしまわないよう小物は身体に着けておくのが良いでしょう。また、翌朝早立ちするなら、まだ皆が寝てるのにがさがさ煩くしないで済むよう、出発の準備も寝る前に整えておいて下さい。