登山&のら湯-山道のあっち側

怠け者の登山術 » バテない技術 » 歩き方 » ペース配分

僅か2〜3時間歩いただけで息が上がってバテてしまう人は、体力がないんだと諦めてしまいがちですが、実は歩くペース配分を間違えているだけのことだったりします。

自分の子供の頃を白状すると、体育の成績は最悪、マラソンはいつもビリッケツ、早かったのは50m走だけで100mでもう息が続かない、運動なんか大嫌いでした。そして現在に至るまでスポーツなんてものとは無縁です。

そんな虚弱な自分でも10時間以上も山を歩いたりするんですから、ちょっと信じられない気もします。まあさすがにきついですけど。

無酸素運動と有酸素運動

運動の性質として無酸素運動と有酸素運動があります。このふたつはそれぞれエネルギーの取り出し方がまったく違います。

無酸素運動
無酸素運動では酸素を消費せず、グリコーゲンがピルビン酸を経て乳酸に分解される過程でエネルギーを発生させます。「乳酸」という嫌な言葉が出てきましたね。無酸素運動は持続時間が短く、せいぜい数分しか続けられません。しかし瞬発的に強力なパワーを発揮できます。
有酸素運動
有酸素運動の方は酸素を使って燃焼することによってエネルギーを生み出します。燃焼の燃料となる物質はグリコーゲン・乳酸・脂肪です。有酸素運動の場合は最大パワーは劣りますが、乳酸を生成しないので燃料さえ切れなければ長時間持続することが出来ます。
登山には有酸素運動
ものすごく端折った説明ですが、登山に向いているのはどちらかってのは一目瞭然ですね。なんといっても有酸素運動は、疲労物質である「乳酸」と、健康の敵と嫌われる「脂肪」を燃やしてくれるのですから、登山では身体を有酸素運動モードに保ち続けることが疲れない、そして健康にも良いコツであると言えるでしょう。さらに都合の良いことに、有酸素運動で使う筋肉は短時間で回復できるという特徴があります。対して無酸素運動で使う筋肉の回復には長時間を必要とします。

歩き始めから有酸素運動モードへ移行するまで

運動の開始時は無酸素運動モードで動きます。身体の仕組み上これは誰であっても必ずそうなります。つまり最初に張り切り過ぎると大量の乳酸が生成されてしまい、速攻でバテてしまいます。

暫く歩き続けると、ふっと身体が軽くなり呼吸も楽になる瞬間がやって来ます。身体が有酸素運動モードへ移行したのです。有酸素運動モードへ移行するまでの時間は人によって変わりますが、だいたい20分以上は必要とされています。

登山開始から1時間程度は休憩しない

登山開始すぐは意識してゆっくり歩き始めます。心拍数が少し上がる程度で、決して心臓がバクバクするほど運動強度を上げないようにして下さい。おそらくスピードは普段歩く半分以下になると思います。弱〜中程度の運動強度を維持することによって、スムーズに有酸素運動モードへ移行できます。10分歩いて疲れた〜なんて言って休んでしまうとまた振り出しに戻ってしまい、いつまでも有酸素運動モードになりませんから、運動を持続することが肝心です。歩き始めから1時間程度は休憩せずゆっくり歩き続けることが良いと思います。

運動強度は強過ぎず弱過ぎず

運動強度が弱過ぎても有酸素運動に切り替わりません。なのでスピードは歩幅でコントロールして、脚の回転数はあまり変えないようにします。これは登山全体を通しても言えることで、リズムを一定に保ち歩幅によってスピードをコントロールすることが、有酸素運動モードを維持し続けることに有効です。

歩き始めに失敗して疲れてしまうと、その疲れは最後まで影響を残します。なぜなら回復の遅い筋肉を疲労させてしまったからです。最初が上手く行けば驚くほど登山が楽に感じられる筈です。

有酸素運動下でのペースコントロール

有酸素運動モードへ移行した後も、ペースを上げ過ぎるとバテます。最大筋力の30%〜40%以下では有酸素系のエネルギーだけが使われるので乳酸は出ませんが、それを超えると無酸素系のエネルギーが使われ始めます。つまりそれを超えない運動強度を保つスピードで歩けば長い時間歩くことが可能になるのです。登山道の傾斜や路面状態などによっても最適なスピードは変わってきますから、心拍数と呼吸数が上がり過ぎない程度を目安にスピードを上手くコントロールして下さい。

休憩の取り方

また、1時間とか大休止を取った後は、身体が安静時に戻ってしまっています。休憩は1時間につき2分とか5分未満の短い時間にとどめる方が総合的に疲れません。結局、休憩の取り過ぎはかえって疲労を溜めてしまう結果となってしまいます。

昼食などで大休止をした場合には、再び登山開始直後と同じようにゆっくり歩き始めることを忘れないよう注意して下さい。

急登でのペース

急登では自分の体重プラス荷物の重さを上に持ち上げるという運動の比率が高くなります。そうなるとどうしても瞬発力が必要となり、無酸素運動のエネルギーを使わなければなりません。登山での疲れというのは、だいたいこういう場所で蓄積されて行きます。

急登でも運動強度を上げないためには、歩幅をことさら狭くして一歩のエネルギーを小さく済ませます。有酸素運動で済む程度の力で収めれば、歩数が増えても疲労は溜まりません。

ですが、急登というのは平らな坂ではありません。腰くらいの高さの段差を一歩で乗り越えなければならない場面も度々あります。なので全く疲れない登山をすることは無理なのですが、それでも足の置き場を考えてできるだけ歩幅を小さく済むように気を付ければ、かなり疲労を軽減できることになります。

自分のペースを守りきる

人によって疲れないペースというのは違ってきます。速い人がいれば遅い人もいて当然です。

登山地図にはコースタイムが載っていますが、あくまでもそれは参考タイムに過ぎません。計画を立てる時にはそのタイムにいくらか時間を上乗せしておくと随分気が楽になります。標準タイムよりどれだけ早く歩けたなんて自慢したがるより、自分は自分と悠然と構えてたらいいんです。ささいな見栄なんてくだらないことです。

登山者の多いコースだと、他人のペースに巻き込まれやすくなります。まったくペースが違う人なら気にならないのですが、その差が微妙だとどうしても釣られてしまいます。特に相手が自分より年上の方だと、若いからと先に行かせたがるんですね。道を譲られたのはいいけど、ずっと後ろにくっついてこられるとかなりのプレッシャーを感じてしまいます。まあ相手も同じように感じるから道を譲って後ろを歩く方が気が楽なんでしょうけど。歳が若いからって早いとは限らねーっつうの。こっちもそんなに若くないんだし、ホント困ります。

結局、まず自分のペースを知るということと同時に、自分のペースを守りきれるかどうかってのが、疲れない登山の鍵となります。

辛くなったら

ゆっくりゆっくり歩いても、まったく疲れ知らずなんてことはありません。きつかったら少し立ち止まってみてもいいし、自分なりに疲れと折り合いをつけながら歩き続ければいい。自分に鞭打つ必要なんてありません。焦らず、ゆっくり、一歩ずつです。

それでもどうしても辛くなったら水戸黄門の歌でも口ずさんでみましょう。一歩前に出れば、その一歩分は目的地に近付いたのです。時間がかかったって、いずれ絶対にゴールできるのですから。