登山は長時間運動し続ける過酷なスポーツです。そのエネルギー消費量は半端じゃなく、それほどのエネルギー量を食物から摂取しなければならないのですから、食べなければバテてしまいます。
登山の消費カロリー
人間が生きて行くために必要な最低限の生理的活動を基礎代謝と言います。これは心臓を動かしたりという生命維持の基本的活動で、成人男性で1日に約1500キロカロリーのエネルギーを消費します。基礎代謝量は個人によって違いますが、筋肉量が多い人ほど基礎代謝量が多くなります。
登山の時に消費するカロリーは、1時間につき500〜600キロカロリー程度となります。8時間の登山では5000キロカロリー近くなる計算です。フルマラソンで消費するカロリーが2500キロカロリーくらいですから、これは相当な数値です。食事の量で考えれば、普段食べている3倍以上の量を食べないと賄えないということになります。そんなに食べるのは大変ですね。3食の他に1時間ごとにおにぎりふたつ食べないといけません。
実際の登山でそれほどの量を食べるのは現実的ではありません。ではどこからエネルギーを持ってくるかというと、身体に貯蔵している分が消費されます。
朝食の重要性
燃料の消費順
最もエネルギーを取り出しやすいのは糖質です。なので登山では小さく軽くて高カロリーな甘い物を行動食に持って行きます。疲れた時に食べると速やかにエネルギーを補給できます。但し持続時間は極めて短く、あっという間に燃え尽きてしまいます。
糖質というのはつまり炭水化物のことですが、この炭水化物をある程度消化に時間がかかる物で摂取すると、ゆっくり吸収されるので長い時間に渡ってエネルギーを取り出すことが出来ます。また、急激な血糖値の上昇を招かずに済みます。
最も燃え難いのが脂肪です。体内に貯蔵されている量も多く、長時間に渡り大量のエネルギーを作ることが出来ます。脂肪は有酸素運動でしか燃えません。
朝食を食べないと
体内にエネルギー源の脂肪がたくさんあっても、燃え難い脂肪にはなかなか火がつきません。また、運動し始めから脂肪が大量に燃焼することはなく、運動を持続してから初めて脂肪の燃焼比率が高くなります。
朝食を食べずに運動を始めると、脂肪が燃え出す前に燃料不足に陥る可能性が出てきます。歩き始めでバテた場合、その疲れを最後まで引きずってしまい、とても辛い山歩きになってしまいます。
まあ、素人があーだこーだ言うより、朝食を抜いてする登山と、しっかりした朝食を食べてする登山を、実際に試して比べてみれば一発でわかると思います。疲れ方がまったく違いますから。
燃え難い脂肪とダイエット
脂肪は全てのエネルギーが尽きた時の最終手段として貯蔵されています。なので飢餓状態を経験すると、それが解消された時に次の飢餓に備えてより積極的に脂肪を溜めようと身体が反応します。具体的に言うと、飢餓状態ではまず蛋白質が分解されて筋肉が減って行きます。つまり基礎代謝量が減少します。基礎代謝量が減れば生きて行くのに最低限必要なエネルギーは少なく済みますので、食べた時にはより多くのカロリーが余って脂肪を貯蓄しやすくなります。ダイエットには最悪の悪循環です。
食事制限で摂取カロリーを減らせば体重は落ちますが、体重が減ったと喜んだら実は基礎代謝量を減らしてしまったという笑えないオチになったりします。一時的には痩せられましたが、いずれ摂取カロリーと基礎代謝量のバランスが取れて体重は減らなくなります。つまり太りやすい体質になってしまったわけで、食事制限をやめた途端に以前よりさらに太ってしまうという結果を招きます。リバウンドです。
ダイエットを成功させるには、脂肪は燃やして基礎代謝量(筋肉)を増やさないとなりません。なのに脂肪は極めて燃え難い性質です。ぎりぎりの飢餓状態になれば脂肪も消費されますが、普通の生活をしていればそんな状態にはなり難いのですから、無理にでも脂肪に火をつけなければなりません。例えば生木に直接火をつけようとしても簡単にはつきません。ではどうやって火をつけるかというと、オイルやガソリン、または燃えやすい紙などをくべて燃やします。そうすれば生木でも燃やすことが出来ます。着火するための種火が有酸素運動で、オイルやガソリンに相当するのが炭水化物です。
炭水化物の重要性
脂肪の燃焼促進剤となるのが炭水化物です。そもそも脂肪は脂肪単体では燃えません。炭水化物と一緒じゃないと燃えないのです。逆に炭水化物は単体で燃えますので、運動のし始めはまず炭水化物がエネルギーに変わります。運動を継続するとやがて脂肪から取り出すエネルギーの割合が多くなりますが、空腹状態で登山を始めると炭水化物が不足して脂肪からのエネルギーを充分取り出せるようになる前にバテてしまいます。
また、炭水化物は脳のエネルギー源でもあります。炭水化物が不足すると脳の活動が低下し、ぼ〜っとなったり眠くなったりします。脳が疲れたというシグナルを出すため疲労を感じます。判断能力の低下は遭難にも直結しますので、特に登山では危険な状態です。
ちなみに、炭水化物と脂肪の燃焼比率は、平地トレーニングより登山の方が脂肪の割合が高くなるそうです。低温・低酸素の環境下では脂肪の燃焼比が高くなるとのことで、まさに山岳環境がぴったり当てはまります。登山は他のスポーツよりもずっとダイエットに向いたスポーツなのですね。
シャリバテ
燃料切れを起こすとどうなるかというと、足がだるくなってきたな〜と感じたらそれは注意信号で、暫くするとぱたっと足が止まります。たった一歩がなかなか前に出せません。ホントに驚くほど動けなくなります。これがシャリバテです。
燃料切れですから、食べればすぐに解消します。即効性があるのは糖質を多く含む甘いお菓子類です。中でも最もエネルギーに変換しやすいのはブドウ糖になります。なので自分は緊急用に必ずブドウ糖を持って行きます。じゃがいももブドウ糖に近い吸収スピードのようです。
しかし吸収の早い食べ物は急激に血糖値を上げますので、血糖値が上がり過ぎるとインシュリンが大量に分泌され、そうなると余った糖質はエネルギーに変わらず脂肪になってしまいます。単なる砂糖のような物には即効性はあっても持続性はないのです。
白米だけというのは結構吸収が早いようです。食パンも同じです。但し、脂肪と一緒に摂取すると吸収スピードが落ちます。豆類や果物などの吸収速度は遅いようです。色々な食物を取り混ぜて摂取するのが、吸収スピードを適度に保ててシャリバテを防止するのには効果的です。
登山の時には、食糧計画をしっかりと立てて下さい。