【写真(1):薬師沢を上流へ】
休憩の後、上流に向かって川原をあるきだす。
前方にはハシゴ。ここは落ちたらタダでは済まない高さ。しかもハシゴの上部はきわめて狭く、ハシゴから岩棚に移る際に掴める鎖などもなく、でかいザックが邪魔臭いこともあって結構緊張した。
自分一人ならまだいいけど、ツレがいるとそちらも心配だ。ゆっくり丁寧に登って、ツレも無事通過。
【写真(2):振り返って鎖を見る】
そこを過ぎるとすぐまた崖っぷちを下りる。鎖が付いているから怖くはないが、足場があまり良くなく滑りそうで安心はできない。速やかに通過しないと落石も降ってきそうだ。
【写真(3):へつり】
息をつく間もなく今度は垂直の岩をへつって越える。鎖が張られているが、足場は殆どなく岩の割れ目につま先を突っ込んでにじり進む。まあ落ちても怪我もしない程度の水面ぎりぎりの高さであるが、靴を濡らしたくないし、ましてや全身ずぶ濡れなんて絶対に御免だ。
【写真(4):ハシゴに続いて鎖のアトラクション】
へつりを越えたらすぐにハシゴ。ハシゴを登り切ると狭い岩棚を水平移動。次々に現れるアトラクションをこなす。
しかしアトラクションはこの辺りに集中していて、ひと通りスリルを味わったら後は長い川原歩きになる。逆から来た場合、川原歩きで疲れが来た頃にこのアトラクション、そしてそれが終わると急登を高天原峠に登ることになり、それはきつそうだな、と思った。かと言って雲ノ平直登コースも死にそうなほどきつい。
高天原温泉に行くのにどうすれば一番楽なのかと考えると、結局のところ楽に行けるルートなんてないってことか。比較的マシだなと思えるのはおそらく、折立か新穂高から入山して三俣蓮華経由で雲ノ平入り、後は今回のように雲ノ平から高天原、大東新道を使って太郎、折立へ下りるってのが、日数はかかるけど体力的には負担が少なそう。もちろん、全て小屋泊まりで荷物を軽く。
【写真(5):薬師沢小屋前の吊り橋が見えてくる】
石がごろごろして常にバランス取りに体幹を酷使する川原歩きは体力を消耗する。それが最初の予定で大東新道を避けた理由のひとつでもあるが、思ってたほどの疲れは無かった。初日と二日目の疲れ方が酷すぎたせいで相対的に楽に感じているだけかもしれないけど。
ツレの方は怖がって進めなくなるということもなく、それどころか逆にアトラクションを楽しんでいたらしい。この区間が一番面白かったと言っていた。いやいや、帰り道だから後は帰るだけという気安さで、心に余裕があっただけじゃないのか? 往路にここを通っていたらまた違った感想になりそうだ。
天気が良過ぎて、木陰の無いルートは暑くてかなわない。沢でタオルを濡らして頭に巻く。UVグローブを水に浸けてびしゃびしゃなまま手にはめると気持ちいい。
やがて薬師沢小屋前に架かる吊り橋が見えてきた。
【写真(6):雲ノ平方面への分岐】
帰ってきた〜って感じ。ここを登ってったんだな〜と遥か昔のことのように見上げる。
【写真(7):ハシゴを登ると吊り橋】
吊り橋へ向けて最後のハシゴを登る。行きには少し怖いと思ったこの場所も、今は心が死んだように何も感じない。スキップさえもできそうだ。
12:30、薬師沢小屋到着。休憩時間を引けばほぼ標準コースタイム通りと言える。うちらとしては上出来かな。
【写真(8):太郎平小屋】
薬師沢小屋でカップ麺を買って食べてから出発。中俣の橋を渡って始まる急登は、きついことはきついに違いないが、雲ノ平への登りがあまりにきつ過ぎたので大した事なく感じてしまう。
16:00、太郎平小屋到着。そこからさらに薬師峠まで移動して、天泊。
【写真(9):有峰湖を望みながら帰途】
いよいよ最終日、天気は上々。なんで肝心の高天原でだけ雨が降るんだと、意地悪な天気を恨めしくも思うが、自然に文句を言っても始まらない。台風が来なかっただけでも運がいい方かもしないし。朝はのんびりしたのでテントを畳んで出発したのが9:00。
太郎平小屋でジュースをふたつ買って水分を確保。スポーツドリンクの粉末を持っていたが、なんかもうスポーツドリンクは飲みたくなくなっていたから。
9:30、太郎平小屋出発。
太郎からの下りは徐々に速度を上げて普通のスピードで下ったが、しっかりツレは付いてくる。先に行かせてみてもペースは落ちなかった。まあ雲ノ平周辺の道に比べたら整備された高速道路のようなもんだけど、五日間も山を歩き続ければさすがに慣れたようだ。危ないからあんまり慌てんなよ、と途中で声を掛けたのは、実を言うとペースが上がりすぎて危うくおいてかれそうになったから。ほんの数日前と比べたらえらい変わりようだ。
というか、それほど山を下りることが嬉しかったのかもしれない。
12:40、折立に到着。長く辛く厳しかった今回の旅もついにというかやっとというか、これにて閉幕となった。